佳作 海の中の小さな宇宙

大阪教育大学附属平野中学校 2年 井上 穂乃里

 水深200m以深に広がる『深海』という世界。
深海とは、深くなるほど冷たく暗闇に包まれており、深さが10m深くなるごとに水圧は1気圧ずつ増え、水深200mでは小指に20kgもの圧力がかかっている状態でとても過酷な環境です。そこには、どんな生物がいるのでしょうか。
 例えば、マッコウクジラ。体長は雌で12m以上、雄は18m以上もあり、大型の肉食動物で主にイカやタコ、タラなどを食べます。そしてなんと、イカ類の中で世界最大であるダイオウイカも食べます。なので、マッコウクジラの胃からダイオウイカの一部が出てくることがあります。潜水時間は30~40分、長いと一時間を越えることもあります。これだけ長くそして深く潜れるのは、脳油という頭に油があるからです。潜水時に鼻孔から冷たい海水を取り入れ、脳油を固体化させて頭の比重を大きくし、潜水時に利用しています。浮上する時は、海水を出して体温により脳油を液体に戻し、その浮力を利用しています。哺乳類でも深海に行くことができるのです。
 次は、ダイオウグソクムシです。世界最大の等脚類で体長は30~40cm体重は1kgもあります。餌は海底に沈んできた魚やクジラの死骸です。なのでダイオウグソクムシは、「深海の掃除屋」と呼ばれています。また少食で飢餓に強く、数年食べていなくても死にません。深海には餌となる物が多くないため、あまり食べなくてもすむように発達したと考えられます。
 深海には発光する魚もいます。マツカサウオはその名の通り、見た目は松かさのようです。体長は15cmほどで色は黄色っぽく鱗は強大で松かさ状になっています。下顎には一対の黒い発光器官があり、そこに発光バクテリアを共生させています。ただ、発光する理由まで分かっていません。ほかにもチョウチンアンコウなどの発光生物もおり、こちらは獲物を捕まえるために発光しています。
 アオメエソはとても目が大きい魚で体長は14cm、目が青く光ることから「メヒカリ」とも呼ばれます。深海の中でも僅かに光の届く水深に生息しており、より光を集めようとして、目が大きくなったと考えられています。
 一方で、目が退化していった魚もいます。それは、アサバホラアナゴです。目が皮膚の中に埋没しているので、外見からは目が無いように見えます。光が全く届かない水深に生息しており、目がある必要がなくなったからだと考えられています。その種によって、目などを進化させたり、退化させたりして生きるために工夫をしています。
 深海で生きる生物にはいくつかの特徴があります。まず水圧が強いため骨格や筋肉が軟弱です。他にも口や胃が大きかったり、色が単純だったりします。また、周囲の海水を取り込み体内外の圧力を保っています。水深700mより深くなると光が完全に届かなくなるので、植物などは生息できずプランクトンもほとんどいません。だから、肉食の生物や死骸などを食べる魚ばかりです。深海生物は、『深海』という過酷な環境の中でも生きるために進化や退化を繰り返しているのです。
 このように、深海生物は深海で生きることにだけ特化しすぎていて、他の場所では生きていけません。水圧の差によって、地上に上げられると内蔵が口から出たりしてしまいます。深海生物が生きていける場所は限られているのです。
 色々な深海生物がいますが、その生態はよく分かっておらず、謎に包まれています。また私達人間が潜れる水深には限りがあり、深海観測用の潜水艦でもやはり限りがあります。つまり、人間が深海について分かっているのは、ほんの一部分だけだということです。ですが、私はいつか人もさらに深い水深まで実際に行けるようになり、深海や深海生物についての研究が進んでいくと思っています。
 同じ地球なのに分からないことが多い『深海』。私達が知らない深海には一体どんな世界が広がっているのでしょうか。きっと、今まで予想もしなかったような世界が広がっていて、見たことのない生物など新しい発見がたくさんあると思います。私は深海のことを知った時、過酷な環境や謎が多い所が宇宙に似ていると思いました。深海は宇宙と同じ位未知の世界です。深海は地球の小さな宇宙と言えるでしょう。深海を知るということは地球を知るということ。地球の謎『深海』が解き明かされ、人間が深海に進出し、どんな世界が広がっているのか分かる日がとても楽しみです。
 深海に行けるようになった未来。私はマッコウクジラとダイオウイカの生死をかけたその激しい戦いにきっと感動していることでしょう。

2020年12月02日