佳作 サケの生き様

大阪教育大学附属平野中学校 2年 山口 陽香梨

 サケの母川回帰。有名で知っている人も多いでしょう。しかし、なぜ回帰するかなど、詳細はあまり知られていないと思います。実際、この前寿司のサーモンを食べていたとき母に、「サケって自分の生まれ故郷に帰るけど、なんでわざわざ故郷を離れるの。」と聞かれました。私は産卵の為じゃないかと思いましたが、よく考えるとサケが生まれるのは川だから産卵の場所も川です。結局答えることはできず、サケの母川回帰やその理由を調べてみることにしました。
 サケはサケ目サケ科サケ属の魚で漢字では鮭と書きます。サケという名前の理由には三つの説があるそうです。肉に節はあり裂けやすい「裂け」説と、赤い肉がまるで酒によったような色だという「酒気」説と、アイヌ語で本当の食べ物を表すシペが変化した説です。
ちなみに、鮭の圭は「三角形にとがった」「形が良い」などの意味を持っています。
 サケの母川回帰というのは成長したサケが海に出て旅をし、長旅を終えたサケが自分の川に戻ることをいいます。ですが、そもそもなぜサケは海へと降りていくのでしょうか。それは、海が川よりも水温が安定していて餌も豊富にあるからです。しかし、一生海に留まるわけにもいきません。サケの卵は淡水でしか孵化できないため、サケは故郷の川へと戻ります。群れをなしていたサケは一組のつがいに分かれ、卵を産みます。生まれた赤ちゃんは水中を移動できないので泳がずに母親からもらった卵黄で成長していきます。子供のサケは餌のとり方が上手くなく小さな虫の幼虫などを川の流れに逆らいつつ捕食していき、やがて大人になったサケは海へ降りて海で生活します。短くて一~二年、長くて二~八年海の旅を続けるサケは海を探索しながら動物性プランクトンや小型の魚、イカ類を食べて著しく成長していきます。十分に成長したサケは海を回遊するのをやめて生まれた川を目指して旅を続けます。故郷についたサケは卵を産む作業を行い、終わると息を引きとってしまうのです。
 サケがなぜ自分の川に戻ることができるのかはまだ分かっていません。有力なのはにおいを頼りとする嗅覚説ですがサケがすごいのに変わりありません。
 サケが自分の故郷に帰るための旅路は遡上と呼ばれていますがその旅はとても過酷です。ポイントは三点あります。一つ目は、サケは川に入ってから一切食事をしないという点です。サケは淡水と海水に適応した身体をもっていますが、海を泳いでいたサケは川の淡水に適応するために断食をします。つまり身体にたくわえている栄養分だけで川を泳ぎきらなければならないのです。遡上に時間がかかれば途中で力尽きるサケもいます。二つ目は雨で水かさの増えた激流を上るという点です。サケは上流の産卵場所へ向かうため、水かさの増える雨期に遡上します。水かさの増える分、水の流れは激しくなってしまいます。雨期でも、雨は止むことがあるので、川が浅くなり上り切れないこともあります。三つ目はいろいろな肉食動物に食べられてしまうという点です。断食状態で激流を上り疲れきったサケを、あらゆる肉食動物が空、川、陸から狙っています。
 断食をして、激流を上り切り肉食動物から逃げ切って故郷の川に戻ることのできたサケはほんの0.4%以下だそうです。生きて戻ったサケも産卵を終えたら死んでしまいます。私は多くのサケが故郷に行くこともできずに死んでしまい、わずかに残ったサケも自分の役目を終えたら死んでしまうのはとても切ないと思いました。しかし、サケがもし遡上しなかったら、森の動物たちは食料がなく、森の木々はサケの死骸に含まれる海の栄養素を受けとることができません。死骸によって増えるプランクトンも、次世代のサケの稚魚の餌にもなります。サケは死ぬことで森の生物や子孫を支えているのです。サケは本能の奴隷ととらえられるかもしれませんが、多くの命を死んでからも支えるサケはすごいと思います。
 そんなサケですが、近年、数は減ってきています。地球温暖化で海水温が上昇し、適切な時期に海を移動できないため生存率が下がっているのです。環境問題はこんな間近な所まで迫ってきています。私たちで、サケの生き様を守っていきたいです。

2020年12月02日