高槻中学校 2年 古川 真太朗
有明海に夕日が沈む。すっかり暗くなった海に、オレンジの筋が一本、ゆらゆら揺れている。魚が一匹跳ねた。何と言う魚だろう。大きな鳥も飛んでいる。これも名前が分からない。オレンジの太陽に背を向けると、一面ひまわり畑が広がっている。有明海に面する干拓地、五ヘクタールに五十万本のひまわりが植えられている。僕は今、ひまわり園内にある高台に登って、夕日とひまわりを満喫している。僕が毎年この贅沢を味わえるのは、福岡県柳川市に祖父母の家があるからだ。夏休みに親戚みんなが訪れ、ここに来ることになっているのだ。毎年この景色は変わらない気がするが、今年はひまわりの育ちが悪いだとか、のりが不漁だとか、ぶどうが不作だとかさみしい話を聞くことが多くなったような気がする。
そもそも有明海は、満潮と干潮の差、干満差が日本一の海だ。この干満差を利用して、潮干狩りが出来る。その泥干潟には、ムツゴロウやエツ、ハゼクチなど有明海特産種と呼ばれる、有明海にしかいない生物がたくさんいる。それは、干満の差、潮の満ち引きによって、九州最大の川、筑後川をはじめ、大小百を超える河川の流入による栄養分をたっぷり取りこんだ有明海底の豊かな土壌があるからだ。そして有明海と言えば、有明海苔が有名だろう。質、量ともに日本一とも言われる有明海苔のおいしさの秘密も、有明海が栄養豊富な干潟の海であったことが要因らしい。淡水や海水が潮の流れによってほどよく混ざり、奇跡的にのりの養殖に適度な塩分濃度を実現している。また、干満の差により、のりが毎日充分に浴び、独特の風味と甘味をつくりだしているそうだ。有明海の海苔づくりは、海に大量の支柱を立て、その支柱に網を張っていく「支柱式」と呼ばれる独自の養殖方法で行われる。確かに夕日の映える有明海にたくさんの支柱が立っていたっけ・・・。この「支柱式」での海苔の養殖を行っていくには、環境条件や細やかな手入れが必要になる。支柱の調整は、気温や天候、干満差など様々な要素に気を配りながら、昼夜問わずに行われていると聞いた。この海苔と並んで忘れてはならないのが、柳川干拓巨峰である。この巨峰は有明海沿岸地帯の干拓地に位置していて、潮風の吹く田園に植えてある。土壌は塩分をはじめとする様々なミネラル分を含む栄養素がたくさん含まれている。ヨーロッパのぶどう園の土壌に似ていて、みずみずしく育っているそうだ。
こんな素晴らしい有明海でも、近年では様々な問題がある。主な要因は人間の生活排水などに含まれる、有機物や窒素、リンなどの海に入り込む汚濁物質だ。たびたび赤潮が発生し、奇形魚が生まれてくるようにもなっている。諫早湾の干拓事業により、漁獲量の減少傾向が続き、大量の海苔の色落ち被害が発生したらしい。僕にとって身近な海にも環境問題が差し迫っていると感じた。
人間による環境汚染で人間が海からもらっていた恩恵を受けられなくなるのは情けないことだ。近い将来、僕の大好きな海苔やぶどうが食べられなくなるのかと思うと、環境問題が自分にも関係のある問題だと改めて気付かされた。今まさに夕日が沈もうとしている海の中で、小さな異変が大きなものになるのではないかと心配になった。今見ている景色と同様、海の中も美しくきれいであってほしい。