金賞 ひいおじいちゃんとチーズ

大阪教育大学附属平野中学校 3年 森山 惺子

 昨年末に帰省した時のことです。納戸の荷物を整理する手伝いをしていると、古びた箱の中から亡くなったおじいちゃんの通信簿やおじいちゃんが赤ん坊だった頃の写真が出てきました。紙の端は少し茶色がかり、写真もモノクロ、少しほこりっぽい香りも手伝い、それらはすぐに古い物であることがわかりましたが、大切にしまわれていたのだと思います。そして私はおばあちゃんにすぐに或る事を尋ねました。それは赤ん坊だったおじいちゃんのそばに立っていた男の人のことです。その人は眼鏡をかけており、顔がおじいちゃんにそっくりだったので、ひいおじいちゃんだと教えてもらって納得しました。家族写真だったそれには、椅子に座るひいおばあちゃんに抱っこされたあかちゃん姿のおじいちゃんを囲むように、家族が取り囲んでいます。洋風の観葉植物が置かれ、背景は洋室の佇まいです。これとは別に、パリッと外套に身を包んだ立ち姿のひいおじいちゃんの写真もありました。
 古い写真なのに、随分今風な感じだなぁとしばらく眺めていると、おばあちゃんが「ひいおじいさんは船会社にお勤めだったのよ」と話し始めました。ひいおじいちゃんは旧満州で貿易にまつわる仕事をしており、世界の主要な港湾都市にあった支店に勤めていました。一度航海に出ると数ヶ月間戻らない生活を送っていたそうです。おじいちゃんはその赴任地で生まれたのでした。当時としてはハイカラな暮しぶりで、おじいちゃんの姉はひいおじいちゃんが仕事先から持ち帰ってくるお土産のチーズが大好物だったとのこと。チーズは当時としては物珍しいものだったようで、なんだかおしゃれだなと思いました。
 例えば今では身近なチーズも、いったいどこから運ばれてきているのだろうと思い少し調べてみると、プロセスチーズなどは今でこそ手軽にスーパーなどで買えますが、そもそも国内で消費されるチーズは、全体としては自給率が低く、八割以上を輸入に頼っていることが分かります。そしてこれらは今も昔も貿易によって国内に流通させるのに、その大半は船で運ばれている事が分かりました。
 そもそも日本の食料自給率は四十%程度。コメ以外の主要な作物は、その大部分を輸入に頼っていて、例えば小麦は八十六%、大豆九十三%、飼料用のとうもろこしに至っては、その全量を輸入で賄っています。食料だけではありません。原油は実に九十九.七%を輸入に頼っている状況です。そしてこれを輸送する手段に占める航空輸送の割合はたったの〇.四%。スピードが重視されたり小型で高額なものを瞬時に運びたいとき以外、実に九十九.六%は海上輸送が担っているのでした。そう考えると、私達の生活は「船」に支えられているといっても過言ではありません。
 そんなことを調べてからというものの、船の話題に興味を持つようになりました。先日ニュースを見ていると、新型コロナウイルス感染症が世界的なパンデミックに陥ってからというもの、世界中のコンテナ船がうまく回らずに、特定の港には滞留しがちな状況に陥っていると知りました。ばら積み船はタクシーのように指定した港から港へ積み荷を輸送したり、コンテナ船は路線バスのように船会社が事前にルートと寄港の予定を決めているからこそスムーズな海運が提供されているためコンテナの滞留はそれ自体がうまく機能していない事を指しているはずです。島国の日本にとって、これは大きな問題だと思います。それでも一時期特定の商品における国内流通量が大きく落ち込んだ事もあったようですが、マスク以外は大した話題にはなっておらず、海上輸送に関わる方々の多大な努力が海運を、ひいては私たちの暮らしを守ってくださっているのだと感じています。
 また、学校でSDGSの事を調べている時に、船の環境対策についても調べる機会がありました。環境負荷の少ないLGNを運ぶ一方で、運ぶ際に排出される二酸化炭素をはじめとする大気汚染物質が多いと、全体としては効果を打ち消してしまいます。加えて積み荷の無い時に船のバランスを保つためのバラスト水による生態系への悪影響も懸念され、規制の対象として強化され始めたそうです。こうした「排ガス規制」「バラスト水規制管理条約」を、日本は技術力によって率先して取り組んでいるそうです。
 島国だからこそ日本の海事クラスターと呼ばれる海にまつわる関連産業の総合力は世界一と聞きます。外出自粛などが続き、日常が失われて久しい昨今ですが、私たちの日常を支えてくれる船を始めとする様々な方々への感謝の気持ちと、ひいおじいちゃんへの思いを馳せながら私は今日も大好きなチーズを頂こうと思います。

2020年12月02日