大津市立 青山中学校 3年 志摩 那波
私はこの夏、受験生という重荷を背負いながら沖縄に向かった。人生の分岐点を前に一体私は沖縄で何をしていたのか。「塾疲れたからちょっと沖縄まで・・・。」これほど軽い気持ちで行ったわけではないが、全否定できない私がいるのも現実である。最も、滋賀県在住のしかも受験生が、高い受講費から目を背け飛行機に乗ることが、このような理由で承諾される訳がないのだ。
私はこの夏、沖縄へ「音」を聞きに行った。ユースラムサールジャパンという団体の活動の一環としてラムサール条約登録湿地を訪れ自分の活動している登録湿地と比べるのだ。地元の湿地との違いを直に触れ、考え、良いところや歴史を学ぶのである。
そして、今回の活動はテーマが「音」に注目して沖縄の自然環境を考えるというものだ。今回は、漫湖と慶良間諸島で音を聞き、2つの場所から沖縄の自然を知ろうとしていたのだが、台風の猛威に船が止まり、漫湖での活動のみになってしまったのである。なってしまったなどと言ってしまったが漫湖は那覇市にある国際通りから車で二十分ほどの場所にある水鳥や生き物たちの都会のオアシス、それが漫湖なのだ。その漫湖の自然と歴史の紹介と展示をしている漫湖水鳥・湿地センターから湿地帯へ続く橋のような道を通ったときのことである。私の歩いている橋の下、泥っぽい地面にとても浅いが潮が流れ込んでいる。その環境をひょこひょこと地上なのか水中なのかはっきりしない場所を跳ねて泳ぐ魚。一目見たとき、私の頭の中にはいつか見たテレビでの一場面が浮かんだ。まさかこの様なかたちで実物を見れるとは思っていなかった私は喜び、写真を撮りまくり、たくさん生息していることをいいことにここで受験生の重荷をしばし持ってもらっていたのである。
橋のような道には木道という名前があったことを知った後、私は木道の一角でサウンドマップの作成を始めた。サウンドマップとは紙に自分を中心として右なのか左なのか、どこから車の音だとか水の音といったどのような音がするのかを視覚的に分かるように、三百六十度の音のようすを地図のように表したものだ。このようにサウンドマップを作ることで動物たちのコミュニケーションを知ることができ、より深く自然を理解できるのだ。
木道で聞こえた音は大きく三つに分類ができる。一つは、鳥の鳴き声などの動物の音。二つは、風や波の自然が出す大地の音。三つは、車や私たち人間の音。この三つの音のうち木道で一番多く聞こえた音は予想外だが動物の音だったのである。
次にサウンドマップを作った場所は、生い茂ったマングローブの森の中にひっそりだが存在感を放つ大きな岩だ。地元の人はその岩をチーヤと呼び特別な場所として大切にしているそうだ。なんでも、昔はマングローブ森がこの場所に生えないほどに水が満ちていてチーヤは水の上にひょっこり頭を出している岩だったそうだ。環境の変化は音を聞くだけでも著しく、木道のように動物の音がにぎやかに奏でられておらず、岩の上だからか遠くの人間の音が近くで聞こえる動物の音に勝るほどだ。木道では分からなかった都会の中の自然の小ささや無力さが聞こえたようであった。
漫湖は現在陸上化が進み昔のように水鳥が休める場所が少なくなっているそうだ。このような環境になったのも少なからず人間の生活が昔と大きく変わった時代の力が影響しているのだとか。昔のようにならなくても今に残る自然の大切さを伝える職員の方々のように私も人に森で聞く水や鳥の声、木々と波の重なり、今回の活動で聞いた音を誰かに伝えてみたいものである。
音という時間と共に流れてゆくものに視点をおくことで、今聞こえる音や目に見えている自然がこれからの未来に残るのだろうかと不安を覚えた。長い大自然の音が一時の人類の音に消されてしまう日も遠くないのではないだろうか。二つの音が合わさり、どちらも消えずに済むにはどうすればいいのだろうか。と、チーヤを思い出すとつい考えてしまう。
同じ時間に生活している等しい命の出す音が、重なり一つの音としてまとまることを共存というのなら、今のかたよった世界の音は何が調律するのだろうか。帰りの飛行機で思いついたこの問いの答えはおそらく実現するまで時間が恐ろしくかかるのだろうなと不思議に思えてしまった。