銅賞 海に迫る危機

高槻市立川西中学校 3年 日高 桃菜

 近年、世界の海は「酸性化」している。このまま酸性化が進むと八〇年後の二一〇〇年には、海の生物の二〇パーセントが消滅するとも予測されている。では、なぜ海の酸性化は進んでいるのだろうか。
 原因は人間の活動によって放出されている二酸化炭素である。海は多くの二酸化炭素を吸収しており、その量は大気中の五〇倍とも言われている。
 「酸性化」が進んだ海では、酸性雨によって銅像が溶けるように、小さな生物が溶けてしまうそうだ。小さな生物が溶けていなくなってしまうと、それを食べる生物が困り、今度はそれを食べるもっと大きい生物が困っていく、という連鎖が起きてしまう。
 この連鎖の影響を受けている可能性があるのが、私たちにおなじみのサケだ。サケの不漁が毎年のように報じられ、日本近海での海水温の上昇が原因とされてきたが、サケが育つ海でエサとなっている小さな生物が海洋酸性化により減少しており、これによりサケの不漁が発生しているのではないか、とも言われている。
 世界中の海が酸性化してしまうと、もとの海に戻るのにどれくらいの時間がかかるのだろうか。現在の世界全体の海のPHはおよそ八・一。PH七が真水の中性で、それより大きいとアルカリ性となるため、世界の海はアルカリ性である。しかし、八〇年後にはPHは七・七に達すると言われている。
 かつて地球では、PHが八〇年後の海水ほどまで酸性化したことがある。五六〇〇万年前のことだ。激しい地殻変動が起こり、世界全体の海水は、PH七・四まで酸性化が進んだと考えられている。そこから地球がもとの状態に戻るまでには、一七万年もの歳月を費やしたそうだ。
 この激しい海洋酸性化から地球がどのように回復していったのだろうか。それこそが、今ある海洋酸性化の問題を解決するヒントになると考えられる。
 五六〇〇万年前、海洋酸性化からの回復の最初のポイントとなったのが、植物プランクトンである。植物プランクトンが大気中の大量の二酸化炭素を吸収して光合成を行い、体内に炭素を含む有機物として蓄えられた。すると、植物プランクトンを食べる動物プランクトンが増加し、それを食べる魚なども増えていく。炭素はフンなどに含まれる形で海の底へ沈んでいく。これらはほとんど分解されないため、二酸化炭素は植物プランクトンにより、炭素を含む有機物に変わり、それらを食べる生物のフンなどに含まれ、海底に封じこめられていくのだ。この働きは、「生物ポンプ」と呼ばれている。
 つまりこの「生物ポンプ」を現在の海で活発に働かせることが、海洋酸性化の問題解決につながると考えられるだろう。だが、この「生物ポンプ」も、海洋酸性化が進むと働きが失われてしまう。酸性化が進んだ海では、「生物ポンプ」に関わる生物のふ化率が低下するためである。私たちが二酸化炭素の増加を食い止め、どれだけ「生物ポンプ」を生かせるのかが、重要になってくるだろう。
 また、「生物ポンプ」の役割を果たせる植物を増やしていくことも、海洋酸性化の改善につながるだろう。その植物として、海草が挙げられる。海洋生態系、つまり海草などに取りこまれた炭素を「ブルーカーボン」と言い、森林などに取りこまれる「グリーンカーボン」と比べると、より多くの二酸化炭素を吸収することができるそうだ。海草は成長がとても早く、その過程で大量の二酸化炭素を吸収し、枯れると海底へと沈み、海底に何百年もの間貯蔵することができるそうだ。
 これらの「ブルーカーボン」は人類の活動により排出される二酸化炭素の約三〇パーセントを吸収することができると言われている。私たちが近い未来に、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることができれば、「ブルーカーボン」などにより、着実に二酸化炭素を減らすことができるだろう。
 「海洋酸性化」という脅威はすでに小さな生物たちに影響を及ぼしている。しかし、地球の七割もを占める広大な海には、「海洋酸性化」だけでなく、地球規模の様々な課題を解決に導けるような大きな力が秘められているだろう。私たちはこの力を生かし、地球の二酸化炭素を減らしていくことで、未来の暮らしをより良いものにすることができるだろう。


2022年12月09日